今回のご相談者は60代男性のI様。伝統芸能関係のお仕事をしているI様ですが、伝統芸能の公演数によって収入に大きく営業がでる職種のため、昨今のコロナ禍による公演数減少で生活するので精一杯となり住宅ローンの返済に行き詰ってしまったと相談がありました。I様は長年住み続けた自宅から引越することは考えられず売却をしたくないとオーナーチェンジプランをご希望という事でご依頼いただくことになりました。
I様の物件は築40年経過している3LDKの戸建、建物は築年さることながら実の弟との二人暮らしで整理も掃除もほとんどしていなかったため室内はとても酷い状態であり、重要な問題が発生している物件でした。重要な問題とは地盤が沈下しており建物は傾き、建物の基礎部分がむき出しの状態でドアもまともに閉まらないような物件だったということです。I様は物件を購入してから3年程で地盤沈下を発見し建てた業者に補修をしてもらったのですが、それでも改善せずその後、数回にわたり地盤沈下していく度に、補修をしてもらっていたそうです。しかし、数年でその業者が倒産してしまい補修を受けられなくなり、新たにお金を払う余裕もなくそのまま放置、結果いまの建物の基礎がむき出しの状態になってしまったとのことです。
I様から地盤沈下の件を聞き実際に目にした時には初めての事でしたので、任意売却・オーナーチェンジ以前に商品として扱えるのか不安でした。しかし、色々と調べると建物は古く使い物になりませんが、土地は地盤改良を行えばまた新しい建物を建てられ、その地盤改良も調査の結果、そこまで費用が掛からないこともわかり、立替用の土地を探しているお客様であれば十分売却できる可能性があります。それに物件の所在地は最寄駅から徒歩10分の場所に位置しており立地としては良好です。これで光が見えたかと思いましたがI様のご希望は住み続けることです。売却ではI様の希望に反してしまいます。オーナーチェンジの可能性を模索するため、債権者への地盤沈下の件を報告し交渉を行いましたが、債権者はたとえ地盤沈下だった場合でも十分土地値として債権の全額を返済できる見込みがあると任意売却どころか全額返済を求めてくる始末。オーナーチェンジでの販売は建物が古く地盤の改良も建物があっては補修ができない状態のため、万が一倒壊しI様が下敷きになってしまうリスクを考えると個人のお客様愚か法人のお客様も軒並み検討外となってしまいます。
物件の状態や債権者の条件など総合的に判断しI様にはオーナーチェンジを諦めたほうが良いと説得をしましたが、I様はオーナーチェンジの気持ちが強く売却の方向は頑なに拒否されました。I様の決意は固くこれ以上の説得はできないと思い、I様の希望を叶えるために精一杯活動しようと心に決めます。それからオーナーチェンジをしていただけるお客様をひたすらに探す日々。何件、何十件営業の電話をしても地盤沈下している物件と言うだけで話を聞いてくれません。それでも諦めずに1件1件大事に営業活動を続けていると興味を持っていただける地元の不動産業者と出会います。その不動産業者に地盤沈下はしているが地盤改良で建物がたてられる事や、そこに住むI様の事を話したところ、なんとその地元の不動産業者が物件の将来性を見込んでI様の気持ちが収まるまでオーナーチェンジとして購入しても良いと申し出て頂きました。それに地盤沈下の状態を放置できないという事で応急処置ではありますが沈下部分の補修も行うなど破格の条件です。売却価格も完済できる金額ですのでこれ以上の条件はありません。すぐに契約を締結させて頂きました。
ご依頼当初、地盤沈下と聞き状況を確認した時は正直、これはどうしようもない案件だと端から諦めている気持ちで向き合っていました。しかし、I様のオーナーチェンジを強く望む姿勢からそれでは駄目だと思いなおし精一杯活動しました。その結果、オーナーチェンジという希望を叶え、さらに住宅ローンも完済。これ以上のない成果を出すことができ関わる事ができてよかったと心から思える案件でした。