今回のご依頼主は長野県のF様。お父様と連帯債務で借入した住宅ローンの支払いが困難になったとご相談を受けたのがF様との最初の出会いでした。お話を詳しく伺うと連帯債務者であったお父様が数年前に亡くなってしまい、ご兄弟がいらっしゃいましたが所有権を持っているという事からF様一人がお父様の財産と債務を相続されておりました。
しかし、住宅ローン以外にもお父様が借入した無担保の債権がある事が分かり、F様は相続した以上は住宅ローン以外の債務の返済もしていたそうです。しかし、F様は決して十分な収入がある訳ではなく無理をして支払いをしていたので早々に支払いが滞ってしまいました。それに加え人件費削減という事でリストラにもなり収入がなくなるなど、非常に厳しい事態に陥ってしまったそうです。F様は広い家に1人で住む理由もなく生活も苦しいので、家を売却して生活を立て直したいと売却希望として弊社は依頼を頂くことになりました。
物件は築45年経過している4LDKの平屋建ての物件、狭い路地の中にあり車は通行できるもののすれ違いは出来ない等、立地が悪く尚且つ建物内はゴミ屋敷の様でとても売れるとは言い辛い物件でした。土地の価格相場も二束三文程で住宅ローンの残債務より高く売れるような物件ではありませんでしたので債権者交渉を行い、任意意売却を認めてもらう事が本物件の売却を成約させる上で非常に重要な事でした。 しかし、物件価値があるかどうか疑問が残り、債権者からも「この物件は売れる物件なのか。」と質問がある程で本案件は一度債権者が任意売却の優位性がないと判断した場合は「競売処理」となってしまい任意売却ができなくなってしまいます。「価格の交渉」と「任意売却の優位性」の相反する内容を話し合う事になりましたが債権者と交渉を進めていきました。
一方、販売の方は土地と建物の規模としては割安になる価格帯から販売を開始する事ができましたので予想に反して数多くのお問い合わせを頂く事ができました。しかし、実際に物件の詳細をお知らせすると想像していたより路地の中にあるという事と、新築当時からリフォーム履歴がなく新たにリフォームをするとなるとかなりの費用がかかるという事でどのお客様も契約まではいかず、尚且つ予算的に余裕のない方からのお問い合わせも多く苦戦を強いられます。しかし、地場の仲介業者を中心に営業を行った所、ご紹介できそうなお客様に心当たりがあると言って頂き、紹介した結果、購入希望を頂く事ができました。そのお客様は丁度本物件のあるエリアで物件を探しており、尚且つ建築系のお仕事をされている関係で築年数関係なく安く物件を購入しリフォーム費用にお金をかけて自分好みの内装を施せる物件を探しているお客様でした。債権者を始めF様と買主様の諸条件を調整し債権者からも売買の応諾を頂きましたので契約を締結させて頂きました。
その後、決済に向けて準備を進めていく中で重大な問題が判明する事となります。F様ご家族はF様に相続させて財産も債務も一本化したとの事でしたが、債権者の指摘によりF様家族の相続放棄が完了していない事が判明致したのです。それに加えお父様が亡くなった当時法定相続人であったF様のご親戚がその後亡くなっており、お父様の法定相続分がご親戚家族に移転しており、今回の任意売却を成立させるためにはF様の御親戚家族からの書面で承諾書が必要になるとのことでした。その旨をF様にお話しした所、ご親戚家族とは過去に盛大に喧嘩をした為、絶縁状態で連絡先は知っているが話ができるような関係性ではないとのこと。F様に任意売却を成立させる為にと連絡のお願いをしましたが、F様はどうしてもご親戚家族に連絡する事ができないと拒否。このまま承諾書がなければ競売になってしまい、せっかく購入希望を出して頂いた買主様にもご迷惑をかけてしまう事になります。再三にわたる説得でもやはりF様はご親戚家族に連絡しさらに承諾書へのお願いはできない。いっその事競売でも構わないとまで言いだす始末。競売には何もメリットはない事はF様も理解しておりますが一歩が踏み出せません。
これ以上はF様を追い詰めるだけですので、一つ提案をしました。一か八かになりますが第三者である私が直接、ご親戚の方に連絡をして説得をするという事です。 実際に電話をしてみると知らない番号にも関わらず出て頂き話をすることができました。いきなりの事で驚かれていましたが、事の経緯を説明してご協力をして頂けないかお願いをしてみた所、急に口調が強くなりこれまでF様との事を話題にあげられ相当遺恨があったようで罵詈雑言の嵐でとてもお願いのできるような状態ではありませんでした。一通り怒りをぶつけられた所で電話を切られてしまいました。 その後も何度も電話してどうにかお話を聞いて頂けるようF様に対するお怒りを受け止め根気強くお話しをしていると一通り怒りを発散して落ち着いたのか冷静に話を聞いて頂き、承諾書に署名捺印を拒否した場合に被るデメリットをご説明した所、親戚の方は「色々関係ない事を言って申し訳なかった。事情は分かった。署名捺印をする。」と承諾書に署名捺印して頂くことができました。
それにより正式に売買決済を迎える事ができるようになりました。売買ができるか不明でしたので引越しは保留にしていたので引越しする日程があまり残されていない状況でしたが、引越しするのがお一人という事もあり、どうにか決済日までに引越しと残置物の撤去を滞りなく終え無事売買決済を迎える事ができました。
今回は債権者交渉、物件の販売より何より一番親戚とのお話合いに苦労しました。親戚の方も頭では理解していても深く刻まれた溝が簡単に埋まる事はなく、どうしても感情的になってしまい話にならない場合は大半ですが、最終的にはご協力頂けましたが、非常に良い経験となった案件でした。