今回のご依頼主は広島県のS様。S様は数年前に結婚を機に新築の注文住宅として購入され4人家族で生活されていました。しかし、幸せはあまりにも早く終わりを迎え新築物件に引越をしてから約半年間ほどで夫婦間の仲は悪くなってしまい共に生活をすることはできないと別々の道を歩む決断をされてしまいます。元々S様は仕事柄地方に出張することが多く荷物も少なかったので先に自宅から退去されておりましたが、退去される時には既に住宅ローンの返済を止めており滞納が始まっておりました。S様は特に深く考えず住んでいないローンは払えないと、収入は十分に得ていましたが滞納を続けておりました。そんな最中にS様から自宅の件で弊社へご相談をうける事となります。S様は家を売却したいが住宅ローンが丸々残っていて売却できないのでどうすればいいかというご相談でした。現在の状況で売却をするには個人信用情報に痕が残ってしまうが、任意売却しか方法はないとご説明すると一人では大きすぎて住めないし所有していても意味がないとのことで任意売却を弊社にご依頼をしていただくことになりました。
S様ご所有の物件は築3年の3SLDK、大手住宅メーカーの注文住宅。建物や設備に非常にお金をかけており耐震性に優れた工法で建てられた建物や通常より発電量の多い太陽光発電設備や百数万する蓄電池、床暖房など様々な設備が設置してある物件でした。一見売却においてはプラスな面ばかりの印象ですが、それはその分、多くローンを組んでいるということであり、さらに地方の物件ですので土地値は二束三文程で相場の価値と実際の価値に大きな乖離が生じている状況でした。
S様よりご依頼を受けたあと調査や準備を進めていきましたが非常に重要な問題が判明します。S様の住宅ローンの借入方法がローン滞納時に保証してくれる保証会社を設定しない「プロパーローン」と言われる借入だった事です。通常は保証会社を設定し住宅ローンの借入を行います。この保証会社は借主がローンの滞納をした際に立替をするだけで実際には借主の返済義務と内容は変わらないのですが、ローンの貸付をする銀行のリスク回避となります。リスク負担の状況により銀行の対応も変わるため、保証会社の設定有無は巡り巡って任意売却に影響を及ぼす重要な事項なのです。
融資元である債権者に連絡を入れ事情を説明、既に滞納をしておりましたのですぐに話を進めることはできたのですが、債権者の回答としてはプロパーローンであり築浅の注文住宅のため、物件の価値はあると判断され、実際の相場価格に関わらず、限りなく完済に近い金額での売却を求められてしまいます。販売期間は半年間でそれ以降は競売に移行しますとのこと。任意売却の応諾の条件が厳しいと想定はしていましたが、債権者が求める金額と相場価格に大きな乖離がある今の条件では販売活動をしても成果が得られないのは明らか。査定書をはじめ様々な資料を提出し交渉にあたりましたが、債権者もプロパーローンであり物件価値が高いと判断しているためか態度は強硬で一向に進展がありません。当然、債権者の条件価格で販売を開始しましたが1件も問い合わせがありません。しぶとく交渉を重ねどうにか条件の緩和をして頂くこともできましたが、それでも条件が厳しいことに変わりはなく約束の半年が経過してしまいます。いよいよ競売に移行と思いきや、中々競売の申立がなされません。債権者に状況を聞いても「競売の検討中」とあやふやな回答です。それから待てども競売に移行せず3ヵ月が経過したころ、債権者より債権回収会社にS様の債権を譲渡すると連絡がありました。つまり、債権者は期間を過ぎれば競売に移行すると言っていたにも関わらず他社へ債権を売却したということです。競売に移行してしまえば裁判所から実際の相場等を考慮した物件評価額が算出され、尚且つ競売に参加する9割が法人であり不動産業者のため、落札金額=回収額はかなり減少してしまいます。それを避けるために競売と債権譲渡を天秤にかけ、債権者の条件では任意売却の見込みが薄いと分かっていながらプロパーローンと物件価値の判断という債権者の様々な社内事情により任意売却に協力することができないことも相まって、当初の競売という予定を変え債権譲渡に踏み切ったのです。債権譲渡になるケースは少ないのでこの対応には驚きましたがようやくチャンスが巡ってきました。それは譲渡先の債権回収会社はS様の債権を額面より安く購入している為、採算が合えば全体の債権額より低い金額でも任意売却に応じやすい債権者なのです。すぐに譲渡先の債権者に連絡をして査定書の提出、これまでの販売活動報告など事細かく資料を提出し販売価格の適正額を打診したところ、少し高い金額ではありましたが適正価格に近い金額での販売活動を認めて頂くことができました。そしてようやく何件か問い合わせがくるようになったのですが、それでもまだ適正価格より少し高いため内見までには至らず足踏みをしてしまいます。近隣の仲介業者への営業活動を何度も行っていたところ、接客中のご夫婦で1組両親が物件の近くに住んでいて、その周辺の物件を探しているとの事で紹介をお願いしたところ、話はとんとん拍子で進みなんと購入希望を頂くことができました。ローンを利用される買主様でしたが、契約、ローン審査、債権者との最終応諾交渉も無事終わり、任意売却の決済を成立することができました。
債権者の態度も強硬で応諾条件が厳しく物件は良くても立地が悪く可能性が乏しかったため、非常に頭を抱えることの多かったS様の任意売却。時間を要してしまいましたが競売ではなく適正価格での売却をでき担当冥利につきる案件となりました。